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  • 執筆者の写真齊藤 尚男

英国ロンドン高等裁判所InterDigital v. Lenovo事件の概要

更新日:2023年5月4日

2023 年 3 月 グローバル知財 最新事情 No. 1

英国ロンドン高等裁判所InterDigital v. Lenovo事件の概要


2023年3月30日

日本弁理士・米国弁護士 齊藤尚男


(1)はじめに

 2023年3月16日、ロンドン高等裁判所のJames Mellor判事によって下された判決 ( [2023] EWHC 539 (Pat)) にて、LenovoがInterDigitalに対して過去および将来のすべてのデバイス販売に対して一括金$138.7M(1億3,870万ドル)を支払うことが義務付けられた。以下に本判決の判示事項の概要を示す。



(2)判示事項

  1. InterDigitalは、Lenovoのような標準必須特許(Standard Essential Patent, SEP)の実施者に対して、FRANDライセンスの取得を明確に拒否しない限り、差止命令を受ける資格がないと裁判所は判断した。

  2. 裁判所は、InterDigitalが使用するボリュームディスカウント(販売量が多くなるにつれて割引率が高くなること)は、明らかに小規模のライセンシーを差別していると判断した。裁判所は、たとえば、訴訟のコストを含む全体的な取引コストを考慮した比較的少額の割引については問題ないと判断した。一方、裁判所は、たとえば、ロイヤルティの早期受領や一括金など、金銭の時間的価値を反映する値引きについては、完全に公正であり、FRAND業務と一致すると結論付けた。

  3. 裁判所は、2017年のLGライセンスが最も適切な比較可能なライセンス(comparable license)であると判断した。その理由は、(i)その期間のLGの売上構成(2G: 0%, 3G: 31.4%, 4G: 68.6%) が Lenovo (2G: 1.4%, 3G: 37.8%, 4G: 60.8%)、(ii)LGの先進国市場と新興国市場の分割は、Lenovoの約2/3:1/3とほぼ同等であり、Lenovoはほぼ 1/5:4/5であること、 (iii) Lenovoは4Gハンドセットの割合を高めて新興市場に低い平均販売価格(ASP)で販売しており、先進国市場への販売が低くなっている点などである。

  4. 裁判所が行った最も重要な調整は、先進国市場と新興国市場の間の価格差を反映したことである。裁判所は、LGとLenovoの間のすべての違いを反映するために0.728の単一の調整比率を適用した。これにより、0.24ドルのLGライセンスレートが0.175ドルに引き下げられた。専門家が裁判所に提出した計算モデルでは、2007年までさかのぼるLenovoの売上高が含まれてた。0.175ドルのレートで計算すると、一括金$138.7M(1億3,870万ドル)となった。

  5. 裁判所は、トップダウン分析は有益である可能性があると判断した。ただし、一般的な「トップダウン」には、様々なアプローチが幅広く含まれており、本件は「悪魔は細部に宿る」という典型的な例である。裁判所は、InterDigitalのトップダウンクロスチェックについて、何の価値もないと判断した。

  6. 裁判所は、自発的なライセンシー(a willing licensee)であれば、FRAND条件への同意またはFRAND使用料の支払いの遅延から利益を得ようとはしないと述べた。したがって、裁判所は、自発的なライセンシーが過去のすべてのユニットに関して支払うはずであると結論づけた。具体的には、裁判所は、自発的なライセンシーが、1つまたは複数の国内制限期間を利用してFRAND使用料の支払いを回避しようとすることを考慮していない。自発的なライセンシーは、「私はこれらの資金を SEP ライセンサーに支払うために取っておいたので、適切なレートが合意または設定され次第、すぐに支払うつもりである」というだろう。そうでない場合、FRAND条件の合意または設定を可能な限り遅らせるインセンティブとなり、遅延が長引けばライセンシーは少なくなる。このような事態は FRAND とはいえない、とした。



(3)実務に与える影響

  1. 本判決では、2020年に英国最高裁で棄却されたUnwired Planet v Huawei 事件並びに Conversant v Huawei 及び ZTE 事件に続くグローバルFRANDレート関連の英国判決として注目される事件である。

  2. 本判決では、必須特許の実施者がFRAND ライセンスの取得を明確に拒否しない限り、差止命令を受ける資格がないと判断した。実務において、実施者側が明確にライセンス取得を拒絶することなど考えにくいことから、事実上、SEP権利者による差止請求が難しくなったと言わざるを得ない。

  3. また裁判所は、いわゆるボリュームディスカウント(販売量が多くなるにつれて割引率が高くなること)が、小規模ライセンシーを差別しているためFRAND違反となることを示した。これは、実務上慣行となっているボリュームディスカウントを根拠がないものと否定する内容で、かなり厳しい判断と言わざるを得ない。一方、たとえば、ロイヤルティの早期受領(いわゆるearly bird)や一括金(lumpsum)など、金銭の時間的価値を反映する値引きについては、公正であり、FRAND宣言とは矛盾しない旨を判示している。今後の実務では、ボリュームディスカウントよりも、early birdやlumpsumといったディスカントが主流になってくることも考えられる。

  4. 裁判所は、2017 年の LGライセンスをcomparable licenseとして認定した。これは、売上構成や先進国市場と新興国市場の割合、新興市場に対する平均販売価格(ASP)などを考慮してのことであり、既存のライセンス契約というよりも既存のライセンシーの商流や販売状況などを重視してcomparable licenseを判断するということが明らかになった。

  5. また、裁判所は、自発的なライセンシー(a willing licensee)であれば、FRAND 条件への同意または FRAND 使用料の支払いの遅延から利益を得ようとはしないとした。これは、自発的なライセンシーであれば、過去分に対する割引などは主張しないはずだという理論に基づく。過去分と将来分とで違うレートを当てはめることが難しくなっていく可能性を示唆する。


 

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