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2026年3月 グローバル知財 最新事情 No.6米国特許庁(USPTO)審査官の利益相反スキャンダル: スクワイアーズ長官による新指針の発表

  • 執筆者の写真: Takao Saito
    Takao Saito
  • 4 日前
  • 読了時間: 4分

2026年3月3日

日本弁理士・米国弁護士 齊藤尚男


(1)はじめに

 

 米国特許商標庁(USPTO)において、審査官が多額の株式を保有する企業の特許出願を自ら審査していたという衝撃的なスキャンダルが発覚しました。これを受け、ジョン・スクワイアーズ(John Squires)長官は2026年3月2日、全審査官および特許権利範囲の決定に関与する職員に対し、保有額にかかわらず利益相反の可能性がある審査から無条件で回避することを義務付ける厳格なメモを発行しました。本件は、米国の審査制度の公平性に対する信頼を揺るがす事態として注目されています。


(2)判示事項


1. スキャンダルの概要と法的措置 司法省(DOJ)は、特許審査官のDaxin Wu氏に対し、財務上の利益相反を理由に50万ドルの和解金を支払うよう命じました。Wu氏は、自らが30万ドル以上の株式を保有する企業を含む、少なくとも9件の特許出願を自ら審査していたほか、90万ドル以上の株式を保有する企業の競合他社の出願も審査していたとされています。


2. システム全体に及ぶ疑念 2024年の監察総監(IG)報告書によると、財務開示を義務付けられている審査官の約30%(約2,100名)に、未検出の潜在的な利益相反が存在する可能性があると推定されています。この報告は、個人の不正に留まらず、USPTOの倫理監視体制そのものにシステム的な不備があることを示唆しています。


3. スクワイアーズ長官による新指針 スクワイアーズ長官は、全特許部門の従業員に対し、以下を内容とするメモを直ちに発行しました。

  • 無条件の回避義務: 自身が株式や債券(公開・非公開を問わず)を保有している企業の出願審査については、その保有額(ドル価値)にかかわらず、肯定的に審査を回避(recuse)しなければならない。

  • 対象範囲の拡大: この義務は、特許権の範囲を決定する全てのプロセスに関与する従業員に適用される。


(3)実務に与える影響

 

1.     審査の透明性と公平性の再定義

 本件により、USPTOは「疑わしきは審査せず」という極めて厳格な基準に舵を切りました。出願人にとっては、担当審査官が突如変更されるなどの事務的な遅延が発生する可能性がある一方で、審査結果の正当性に対する事後的な攻撃(利益相反を理由とした無効主張など)のリスクを低減させる効果が期待されます。


2.     コンプライアンス体制の強化

 USPTO内部の倫理規定が大幅に強化されたことで、今後の審査プロセスにおいて、審査官の個人的な背景がより厳格に管理されることになります。これは、米国の行政機関としての信頼回復を優先した措置と言えますが、膨大な数の審査官をどう実効的に監視し続けるかが今後の課題となるでしょう。


3.     出願戦略上の留意点

 現在の米国における審査環境は、内部スキャンダルの是正に向けた「クリーンハウス(大掃除)」の時期にあります。審査官の交代や審査基準の厳格化が予見される中、出願人サイドとしては、審査官の判断に不自然な偏りや不透明なプロセスが感じられた場合、これまで以上に慎重な監視と適切な対応が必要となる局面かもしれません。


[執筆者] 

   

齊藤尚男(Takao Saito)

齊藤国際知財事務所代表、日本弁理士、米国弁護士(カリフォルニア州)。

主に特許ライセンス交渉、特許侵害訴訟等の知的財産に関連する紛争に関与。また、特許ポートフォリオ・マネージメント、知的財産戦略の策定、 M&A 、企業間の戦略的提携において、知的財産権に関するカウンセリングを行う。18年以上に亘りパナソニックにおいて、特許権ライセンス、知財キャッシュ化、事業契約及び訴訟等の実務経験を有する。2022年齊藤国際知財事務所創業、Squall IP 合同会社設立するとともに、Wiggin & Dana米国法律事務所との提携開始、同事務所コンサルティングカウンセル就任。同志社大学法学部、京都大学法学研究科法制理論専攻後期博士課程卒業 博士(法学)。

 

 


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