2026年3月 グローバル知財 最新事情 No. 9 【特許提訴】CaltechがZoomを提訴:学術研究発の通信技術がビデオ会議の「基盤」を問うのコピー
- Takao Saito

- 1 日前
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2026年3月6日
日本弁理士・米国弁護士 齊藤尚男
(1)はじめに
米国の知財史上、最も論争を呼ぶ発明家の一人であるギルバート・ハイアット(Gilbert Hyatt)氏(87歳)が、2026年3月2日、再び米国最高裁判所に裁量上訴(Certiorari)を申し立てました(Hyatt v. Squires, No. 25-1049)。今回の争点は、裁判所が独自に運用してきた「出願懈怠(Prosecution Laches)」の法理が、法律で定められた全ての期限を遵守している出願人に対して適用され、特許権を否定できるのかという問いです。
(2)ギルバート・ハイアット氏の略歴とエピソード
ハイアット氏は、知財業界では「サブマリン特許の生みの親」とも称される伝説的人物です。
リビングルームからの革命: 1968年、ハイアット氏はエンジニアとしての職を辞し、カリフォルニア州の自宅のリビングルームで「シングルチップ・マイクロプロセッサ」の設計に着手しました。1970年に出願された特許が20年後の1990年に認められた際(米国特許第4,942,516号)、インテル等の巨人が並ぶ業界に激震が走り、日本企業等から巨額のライセンス料を徴収したエピソードは有名です。
USPTOとの半世紀にわたる闘争: 彼はこれまで75件の特許を取得していますが、同時にUSPTOとの訴訟の常連でもあります。2012年の最高裁判決(Kappos v. Hyatt)では、特許拒絶に対する民事訴訟での新証拠提出について勝訴を勝ち取っています。また、彼のあまりに複雑かつ長期にわたる出願維持により、USPTOには彼のような特定の出願を監視する秘密の警告システム(SAWS)が存在したとも言われています。
今回の最高裁への申し立てで、ハイアット氏は以下の点を主張しています。
「隙間埋め」の法理の限界: 最高裁は過去の判決(SCA Hygiene等)において、「懈怠」は法律に規定がない場合の「隙間埋め」の法理であると述べています。特許法には継続出願や応答期限に関する包括的なタイミング規定が存在するため、裁判所が「長引かせすぎた」という主観的な理由で特許を否定するのは法の逸脱であるという論理です。
(3)実務に与える影響
本件が最高裁に受理され、判決が下された場合、以下の影響が予測されます。
継続出願戦略の再構築: 現在、米国の継続出願の約20%が最初の出願から6年以上経過して行われています。特に開発期間が長い医薬品や先端半導体分野では、出願懈怠の法理が制限されれば、より柔軟なポートフォリオ構築が可能になります。
予測可能性の向上: 裁判所の主観的な判断ではなく、法律(Patent Act)に定められた期限さえ守れば権利が保護されるという、出願人にとっての予測可能性が担保されることになります。
ハイアット氏の闘いは、個人の執念を超え、米国特許制度における「行政・司法の裁量」と「成文法」の境界線を問うものとなっています。特に、かつて同氏の特許ライセンスに対応した経験を持つ日本企業にとっては、この老発明家が最後に仕掛ける「逆襲」の行方から目が離せません。
今後、最高裁が本件を受理するかどうか、引き続き注目です。
[執筆者]
齊藤尚男(Takao Saito)
齊藤国際知財事務所代表、日本弁理士、米国弁護士(カリフォルニア州)。
主に特許ライセンス交渉、特許侵害訴訟等の知的財産に関連する紛争に関与。また、特許ポートフォリオ・マネージメント、知的財産戦略の策定、 M&A 、企業間の戦略的提携において、知的財産権に関するカウンセリングを行う。18年以上に亘りパナソニックにおいて、特許権ライセンス、知財キャッシュ化、事業契約及び訴訟等の実務経験を有する。2022年齊藤国際知財事務所創業、Squall IP 合同会社設立するとともに、Wiggin & Dana米国法律事務所との提携開始、同事務所コンサルティングカウンセル就任。同志社大学法学部、京都大学法学研究科法制理論専攻後期博士課程卒業 博士(法学)。
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