2026年4月 グローバル知財 最新事情 No. 11 【速報】外国政府支配企業によるIPR申立資格の否定と「米国国内産業(DI)」重視の新指針
- Takao Saito

- 6 日前
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2026年4月11日
日本弁理士・米国弁護士 齊藤尚男
(1)はじめに
米国特許商標庁(USPTO)内の審理部である米国特許裁判審判局(PTAB)による当事者系レビュー(IPR)の開始拒否(Institution Denial)に対し、司法の監視を求めて提起されていた5つのマンダムス(職務執行令状)申立てについて、連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は2026年2月24~27日にかけて、そのいずれも棄却した。本件は、USPTOの裁量的却下(Discretionary Denial)に対する司法介入の極めて高いハードルを改めて浮き彫りにした事件です。
(2)判事事項
CAFCは、以下の5つの異なる背景を有する事案において、申立人が提示した「IPR開始判断に関する司法審査」を求める各種主張をいずれも退けました。
In re Intel Corp., No. 2026-113 (Feb. 24, 2026)
Intelによる申立て。既に係属しているEPRの方が効率的であるとしてIPR開始が拒否された点につき争われたが、退けられました。
In re Kangxi Communication Technologies, No. 2026-115 (Feb. 24, 2026)
中国の通信企業による申立て。「確立された期待(settled expectations)」要素の適用に対する異議が主張されたが、退けられました。
In re Tessell, Inc., No. 2026-117 (Feb. 24, 2026)
特許の発明者自身が関与する企業による申立て。発明者が当該特許の無効を主張するという特殊事情の下での開始拒否が争われたが、退けられました。
In re Kahoot! AS, No. 2026-119 (Feb. 25, 2026)
教育テクノロジー企業による申立て。「確立された期待(settled expectations)」要素に対する異議が主張されたが、退けられました。
In re Tesla, Inc., No. 2026-116 (Feb. 27, 2026)
Teslaによる申立て。並行する地方裁判所訴訟の進行状況(time-to-trial)を理由とする不開始判断が争われたが、退けられました。
(3)実務に与える影響
1. IPR開始判断の最終性(「マンダマスの壁」)
本件は、PTABによるIPR開始の可否に関する判断が、事実上「司法監視の対象外」であることを改めて明確にした。異なる業界・法的理論の下で提起された複数のマンダマス申立てがいずれも退けられたことは、実務上、一度裁量的却下がなされると、それを上訴等で覆すことが極めて困難であることを意味する。したがって、IPR開始判断には実質的な終局性が認められるといえる。
2. 申立て段階の戦略的重要性の増大
このような状況の下では、申立人側にとって、IPR申立て段階で却下を回避するための戦略が一層重要となる。特に、並行する地方裁判所訴訟との関係を踏まえたスケジュール調整や主張構成が不可欠であり、「裁量的却下を回避するための論理構成」は、従来の特許無効の実体的主張と同程度に重要な意味を持つ。
3. 今後の展望
近時のUSPTOにおける裁量的却下の運用に対しては一定の批判も存在するものの、United States Court of Appeals for the Federal Circuit(CAFC)はこれをUSPTOの裁量の範囲内として是認しており、司法による是正は期待し難い。したがって、制度の見直しは、USPTOによる規則改正や立法措置に委ねられると考えられる。このため、今後の米国特許訴訟においては、IPRが開始されないリスクを前提として、無効主張の場を地方裁判所等にも分散させるなど、複線的なディフェンス戦略の構築が求められる。
[執筆者]
齊藤尚男(Takao Saito)
齊藤国際知財事務所代表、日本弁理士、米国弁護士(カリフォルニア州)。
主に特許ライセンス交渉、特許侵害訴訟等の知的財産に関連する紛争に関与。また、特許ポートフォリオ・マネージメント、知的財産戦略の策定、 M&A 、企業間の戦略的提携において、知的財産権に関するカウンセリングを行う。18年以上に亘りパナソニックにおいて、特許権ライセンス、知財キャッシュ化、事業契約及び訴訟等の実務経験を有する。2022年齊藤国際知財事務所創業、Squall IP 合同会社設立するとともに、Wiggin & Dana米国法律事務所との提携開始、同事務所コンサルティングカウンセル就任。同志社大学法学部、京都大学法学研究科法制理論専攻後期博士課程卒業 博士(法学)。
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