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2026年3月 グローバル知財 最新事情 No. 10  【速報】外国政府支配企業によるIPR申立資格の否定と「米国国内産業(DI)」重視の新指針

  • 執筆者の写真: Takao Saito
    Takao Saito
  • 3月6日
  • 読了時間: 4分

更新日:3月21日


2026年3月21日

日本弁理士・米国弁護士 齊藤尚男


(1)はじめに


 2026年3月18日、米国特許商標庁(USPTO)のジョン・スクワイアーズ(John Squires)長官は、中国のパネル大手である天馬微電子(Tianma Microelectronics)が LG Display の特許に対して申し立てた無効審判(IPR)の開始を却下する画期的な決定を下しました(IPR2025-01579)。本決定は、外国政府が実質的に支配する企業による米国特許への攻撃を制限するものであり、同時期に発表された「米国国内産業(Domestic Industry)」を重視する審査指針と相まって、今後の国際的な知財紛争の行方に極めて大きな影響を与える可能性があります。


(2)ギルバート・ハイアット氏の略歴とエピソード

  1. 政府はIPRを申し立てる「人」ではない: スクワイアーズ長官は、最高裁判例(Return Mail, Inc. v. USPS)を引用し、政府はAIAに基づく無効審判を請求できる「人(Person)」に該当しないという法理を、外国政府およびその実質的支配下にある企業へも拡張適用しました。


  2. 実質的利益関係者(RPI)としての外国政府認定: 本件では、Tianmaの実質的支配者が中国政府の管理下にある「中国航空工業集団(AVIC)」等であり、同社が米商務省のエンティティ・リストに掲載されている事実を重視し、門前払いの決定を下しました。


  3. 米国国内産業(DI)要件の導入: 2026年3月11日の長官メモにより、PTABの審判開始判断において、当事者の米国内での製造活動、研究開発、投資規模(Domestic Industry)を考慮する新たな裁量的因子が導入されました。


(3)実務に与える影響

 

本決定および新指針は、日系企業の米国知財戦略において「技術的論理」以外の新たな防御軸を提示しています。

 

  1. 中国系企業からのIPR攻撃に対する「入口」での防御: 今後、日系企業が中国系企業からIPRを仕掛けられた際、相手方の株主構成や政府との繋がりを徹底調査し、RPI(実質的利益関係者)の不備を突くことで、無効理由の審理に入ることなく「門前払い」を勝ち取れる可能性が飛躍的に高まりました。

 

  1. 米国国内産業要件(DI)による裁量的却下の誘導: 特許権者が米国内で雇用創出や製造投資を行っている場合(Domestic Industry要件)、その特許は「米国経済に寄与する資産」として保護される傾向が強まります。訴訟やIPRの予備的答弁において、単なる技術的反論だけでなく、自社の米国経済への貢献度を定量的データとして提示することが、審理開始を阻止するための標準的な戦略となります。

 

  1. 審査プロセスの厳格化と監視の必要性: 現在USPTOは内部スキャンダル(審査官の利益相反)を受けた「クリーンハウス(大掃除)」の時期にあり、審査基準がこれまで以上に厳格化されています 。出願人サイドとしては、不自然な審査の偏りや不透明なプロセスに対し、より慎重な監視と適切なガバナンス対応が求められる局面です。


[執筆者] 

   

齊藤尚男(Takao Saito)

齊藤国際知財事務所代表、日本弁理士、米国弁護士(カリフォルニア州)。

主に特許ライセンス交渉、特許侵害訴訟等の知的財産に関連する紛争に関与。また、特許ポートフォリオ・マネージメント、知的財産戦略の策定、 M&A 、企業間の戦略的提携において、知的財産権に関するカウンセリングを行う。18年以上に亘りパナソニックにおいて、特許権ライセンス、知財キャッシュ化、事業契約及び訴訟等の実務経験を有する。2022年齊藤国際知財事務所創業、Squall IP 合同会社設立するとともに、Wiggin & Dana米国法律事務所との提携開始、同事務所コンサルティングカウンセル就任。同志社大学法学部、京都大学法学研究科法制理論専攻後期博士課程卒業 博士(法学)。

 

 


※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所のアドバイスを構成するものではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。



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